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乗組員たちの夢をのせて。「軍艦マンション」を訪ねる

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団地、アパート、ハイツ、マンション。グッドルームで紹介しているいろいろなお部屋、その外観も含めて「お、これはなかなか面白いな!」ていうもの、時々めぐり合います。そう、集合住宅って、おもしろい! 世界のおもしろい建築をたくさん巡っているタケさんに、おもしろい集合住宅を紹介していただくコラム。

第6回は、「軍艦」の名のつく集合住宅、パート2。職安通りに今もそびえる「軍艦マンション」をご紹介。リノベーションで新たにシェアハウス/オフィスとして生まれ変わり、今も人気のビル、その歴史に迫ります。
(編集部)

乗組員たちの夢をのせて。「軍艦マンション」を訪ねる

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上の写真は東京都新宿区の都道302号線「職安通り」沿いの光景です。普通のマンションや雑居ビルが建ち並ぶ中、ギザギザしたノコギリの歯を思わせる建物に目がとまります。明らかに異質なこの建物は正式名称を「GUNKAN東新宿ビル」、通称「軍艦マンション」といい、建築好きの間ではけっこう有名な存在です。

「軍艦」の名を持つ集合住宅たち

「軍艦」と呼ばれる集合住宅といえば、世界遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産のひとつである長崎市の軍艦島こと端島炭鉱の高層住宅群がまず挙げられますが(当コラムの第3回で紹介、なお厳密には住宅自体は構成資産の対象外)、軍艦の異名を持つ集合住宅は他にふたつあります。

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ひとつは1931(昭和6)年に完成した大阪市の市営住宅群で、無骨な外観から「軍艦アパート」と呼ばれていました。しかし、最後まで残っていた下寺住宅も2006(平成18)年に解体となっています。軍艦島の住宅や軍艦アパートが建てられた大正から昭和初期は、軍隊の役割が大きかった時代であり、建物を軍艦になぞらえたことには「最先端の建築物」を讃える意味があったと思います。

そしてもうひとつが今回紹介する軍艦マンションです。

軍艦マンションの職安通り側。完成当時の写真によると周囲に高層建築は少なく、街並みに特異な姿が目立っていた。
軍艦マンションの職安通り側。完成当時の写真によると周囲に高層建築は少なく、街並みに特異な姿が目立っていた。

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職安通り側の外観では分かりにくいものの、側面や反対側を見ればこの異名が付いた理由が一目で理解できます。艦橋のような塔屋、舷窓(げんそう=船の窓)のような窓、メタリックな塗装、全体に漂う重厚感、なるほど確かにこれは軍艦です。

戦後25年を経て登場した「軍艦」モチーフ

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鉄骨鉄筋コンクリート造の本体にスチール製の外壁ユニットを取り付けています。ワンルームマンション風に見えますが実際は1層あたり4戸の構成。畳敷きの和室もあるなど、内部と外部のギャップが面白い。(リノベーション前の状態。『渡邊洋治建築作品集』による)

この集合住宅は1970(昭和45)年に完成した当時の正式名称を「第3スカイビル」といいましたが、早い時期から軍艦マンションや軍艦ビルと呼ばれていました。その後「ニュースカイビル」と改称。2011(平成23)年のリノベーションに伴い、通称であった軍艦を取り入れた「GUNKAN東新宿ビル」に改称して現在に至ります。このときのリノベーションによって、軍艦マンションはシェアハウス/オフィスを中心とした用途に再生されました。

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ところで、軍艦島と軍艦アパートは特に軍艦をデザイン化したわけではありませんが、軍艦マンションは明らかにそれをモチーフにしており、戦後25年も経ってこのようなデザインが出現したのは意外というか戸惑いすら感じます。これを設計した建築家はどのような人物だったのでしょうか。

彼の名は渡邊洋治(1923・大正12~1983・昭和58)。新潟県上越市に大工棟梁の息子として生まれます。家業は継がずに地元の工業高校に進学後、金属系企業の営繕部を経て日本軍の船舶兵に。終戦後、一旦は元の会社に復職するも、建築家になる夢を適えるべく東京の大手設計事務所に転職。そしてこれを辞して早稲田大学理工学部建築学科、吉阪隆正研究室の助手となります。1958(昭和33)年に設計事務所を開設。また、独立後も早稲田大学で建築の講師を長年勤めました。

渡邊洋治の建築で実現したものはそれほど多くありません。その作風はなかなか形容しがたいのですが、力強くて大胆なデザインが特徴です。彼が師事した吉阪隆正は建築界の巨匠ル・コルビュジエの元で働いたことがあり、吉阪やコルビュジエからの影響も見られますが、渡邊の個性は師匠筋をも上回る強烈さがあります。

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大根おろし器を思わせる側面。触ったら手を切りそう。正体は斜め向きのバルコニーと手すり。

ネットでは、渡邊洋治が船舶兵だったことから軍艦マンションはあのようなデザインになったとの記述が散見されます。ただ、確かに間違いではないもののそれだけでは不十分で、前述の全経歴を凝縮した成果と見るべきでしょう。軍艦を模した点も単なる懐古趣味ではなく、建築評論家の長谷川堯(たかし)氏は『渡邊洋治建築作品集』の中で、船長の下で乗組員が密接に連携する「洋上の社会」の理想を建築デザインに投射しようとした、と論評しています。

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リノベーション前の状態。薄汚れた外壁は軍艦らしさをより一層感じさせた。

現在、建築家の独創性をストレートに表現した建築は少なくなって、軍艦マンションも一時は取り壊しの予定だったと聞きます。それがリノベーションで生き延びたのは、その強烈な個性ゆえに愛着を持つ人々がいたからです。シェアハウス/オフィスという新たな機能を持った軍艦マンションの航海が末永く続くことを願って止みません。

名称:GUNKAN東新宿ビル(通称 軍艦マンション)
住所:東京都新宿区大久保1

写真と文・タケ

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